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今夜の番組チェック

セールトラブル

 

ヨットというものが実はスポーツであり、金のかかるものだということが昨日はじめて分かった。

 ハーバーの防波堤に立つ。風が強い!海面に風の模様がはっきり見えている。じっと立っていると、時折突風に押されて身体がふらつく。

 ディンギー(エンジンなしの小型ヨット)にでも乗ろうかと思って来たが、この風では私の腕では無理。とっとと帰って孫の子守でもしようかと思った時、Oさんに出会った。

 「すごい風ですね。出るんですか?」

 「いや、今日はYさんの船です。一緒に乗りましょう」

 私はYさんとは面識が無い。当然Y氏は、私が、どれほど役に立たないかを知らないから乗せてくれた。もし知っていれば邪魔になるから乗せるわけはない。それが一般的ヨット界である。

しかし、この風の中に本当に出るのか、さっき20フィートクラスが一隻出て行ったがセールを上げるまでもなくUターンして入港している。

 桟橋に行くと44フィートが繋がれていた。コクピットには舵輪が二つ。エアコン完備でフェリーのように前部にも幅寄せ用のスクリュウがついている豪華版だ。

 オーナーをはじめ、クルー全員は忙しそうに出港準備。私は挨拶もろくにしないで艇に乗り込んで、あちこち見学。
 私を含めて総勢6名、ウロウロして遊んでるのは私だけ。何をしていいのか分からない。普段乗ってる艇の3倍くらいのロープがある。下手に触ると迷惑をかけるだけだ。
 毎回、行き当たりばったりで色んな艇に乗せてもらうから、常にその艇では素人になる。

 話を聞くと、今日は鳥羽レースに出るためのセールをテストするのが目的らしい。5本の舫いを解いてゆっくり港外へ出ると、やはり海上は吹いている。メーターを見ると20ノット強。ここでメインセールを上げた。と言っても私は見てるだけ・・・。

 続いて、今回のテスト目的のスピンネーカーを上げると言う。沖に出るに従い、風はますます強まり、28ノットを示している。

 クルーA「ちょっと風が強すぎる、やめた方がいいかも知れん」

 艇長「いや、これくらいでテストせんとレースで上げられん。まして夜でも上げなあかんのやから上げる」

 と言って聞かず、セールを上げてしまった。大きく膨らむ。艇速は9ノットに上がった。風は時折30ノットを越えて、他にはヨットなんか一隻もでていない海況となっている。

 セールトリムを始めた矢先だった、バリバリと大きな音がしてセールが裂けてしまい、マストトップから吹流しのように真横にはためいてしまう結果となった。

 このセールは50数万円の新品。それが、わずか3分ほどでボロ雑巾のようになってしまった。

 艇長 「やっぱりアカンな。このくらいの風が吹いている時は上げたらあかんことが分かった。やって良かったな」

 オイオイほんまかいな。3分で50万パーにして、その余裕はどこから? さらに

「ほなら、次はジブを上げよう」

 と言う。懲りていない。クルーも豪傑ぞろいで

「予定通りに破れたなあ、レースまでに修理できるかな。これでジブまで破れたら棄権やな、ハハハ」

等と言いながら、ジブセールを展開する。とんでもない船に乗ってしまったのではなかろうか。



 ジブを上げると艇は大きくヒールしだした。傾斜計を見ると30度。たまにブローが入ると35度まで傾いている。ジブセールは常時波を掬いスプレーを撒き散らしている。風下側の甲板も波に洗われている。ボヤボヤしてると、そのまま海に放り込まれそうだ。

 「メイン、締めろ!」

と艇長が私の方を見ながら怒鳴る。どうやら私にしろと言ってるらしい。目の前を見ると左右に3本づつ、計6本のラインがある。

 どれや、メインと書いてあるストッパーから来ているやつかな。メイン出しというのもあるな。他のクルーは舵やジブラインに散っていて聞けない。たぶんこれやろ、と見当をつけてウインチに巻く。ウインチハンドルを差し込んで回す。重い!

 20フィートクラスだとウインチなんか使わなくても、よほどの荒天で無い限り簡単に手で引けるのに、この艇のは全体重を両腕にかけて何とか回るくらいだ。

 カリカリと音を立てながら、渾身の力をこめて回す。腹筋にも力が入る。額から汗がしたたる。

 これはスポーツだ。いや、重労働だ。豪華ヨットはいきなり奴隷船になった。そんなことを思っていると次の命令が来た

 「・・・・を引け」

???分からん、そんなモン、今まで乗った艇にはついてなかった。艇長の目線を追う。そこには何か分からないが細いロープがあったので、とりあえずこれをウインチに巻く。カリカリカリ。それが正解だったらしいが未だに何のロープか判からない。

 「タック、メイン出せ。入れろ、ジブ出せ、締めろ」

次々と命令が来る。クルーはぴったりと息が合ってテキパキと仕事をこなしている。私もモタモタと仕事をこなす。両腕は麻痺するほどに疲れている。通常、腕を使うのは、押す引くが主で、回すという筋肉の使い方はしていない。使っていない筋肉を使うのはコタエル。カリカリ・・・。いい加減疲れた頃に艇長命令が出た。

「帰航」

やっと奴隷解放だ。しかし、まだ一仕事残っていた。

「メイン収納」

と最後の命令。この船はメインセールもマスト内に巻き込むようになっている。誰がするのかなと思っていると、みんな私を見ている。   

 なんと悲しいことに巻き込み用ロープは私の目の前にあった。

カリカリカリ・・・。大型ヨットは確かにスポーツであった。

 今回得た教訓。

1、 台風並みの強風下で、新品セールのテストを行ってはいけない。

2、 知らないオジサンに安易について行ってはいけない・・・・。