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海 を 綺 麗 に 

「よろこべ、モーターボートで女性タレントとデートできるぞ!それも相手は3人。本来なら俺が船長として乗船するところだが、今回は都合によりお前に譲る。ヨロシク頼む」

 

知人からそう言われたのは数年前のことだったが、私は

「ああ、良い趣味を持っていて本当に良かった」

と心底思った。

「ところで、誰を乗せるの?」

「有名タレントだ。今をときめく吉本興業の、H。Y。もう一人はえ〜と、名前は忘れたが若い綺麗な娘だ!」

「・・・・・・・・」

 確かに女性タレントには違いない。しかし、彼女達は女性の外見の美しさを表現する言葉の

『華人、麗人、美人、べっぴん・・・・・・』

のどれに、あてはまるのか。タレントと聞いて、絶世の美女だけしか想像しなかったのは失敗だった。

 引き受けたからには仕方が無い。

何かのCM撮りらしいが、たまにはこういうボートライフもいいかと思い、指定された時間場所に撮影現場に向かった。

 

 現れた彼女達は、赤、青,黄の原色のドレスに身を包み、ボートに乗り込むと三人並んで屋根から上半身を出すように立つ。

 助手席にはAD。携帯電話で橋の上にいるディレクターと連絡をとりながら段取りを進め、私に指示する。

「向こうの橋に向かって、出来るだけゆっくり、まっすぐに直進してください」

 昔、ボート免許を取るときに、試験官から同じようなことを言われたのを思い出す。

 

 私は、橋上のカメラに針路を定め微速全前進しているとADは急に大きな声を出した。

「それでは、本番いきます。5,4,3」

2と1は、声を出さず、指で合図するだけだ。次の瞬間、耳がキーンとするほど大きな声で

「私、キレイ〜。もっとキレイになりた〜い!」

という、ソプラノ三重唱が川面に響き渡った。

 

「もう一度お願いします。今度はもう少しコースを左に、速度はやや速く!それでは本番いきます。5,4,3・・」

とAD。

 なかなかディレクターの気に入った絵が撮れないらしくホンバンを5,6回も繰り返すと、真昼間の大阪中之島のことだから、橋の上からは行き交う人々や、川に面したビルの窓には鈴なりのギャラリーが群がる結果となった。

 その面前で、間違っても事故を起こしてはならない。

  緊張しながらの操縦は荒れる海上を行くより、はるかに気を使う航行であった。

 終わってからも、

「ワタシ、キレイー?」

が耳に残り、寝てからもYHが夢に出てきて

「ワタシ、キレイ〜〜〜」

と迫ってくる。

 私は

「ハイ。キレイです。美しいです」

と、うなされたのだが、結局何のコマーシャルか分からないまま数日が過ぎた。

大阪府の『水をきれいにしよう』というキャンペーンCMだと知ったのはオンエアされてからだった。

 彼女達は水の代弁をしていたのだ。

「私、綺麗?」

と聞く彼女達は、大阪の川や海の水に通じるものがある。つまり、そんなに、けっして美しいという基準には当てはまらない。

「もっと、きれいになりたい」

とは、汚された海や川の叫びなのだ。

 水を、川を、海を美しくしたいのはマリンライフを愛する者の共通の願いだ。

 大阪の海は醤油のような赤茶けた色に様々なゴミが浮いているのが現状で、ついでに言えば去年は2回も死体を引き上げるハメになってしまった。もちろん人間の、である。

 汚れきった海を見て、初めて人は反省する。悲しいかな、都会に棲む人々は、汚れた海でも、素晴らしいデートコースであり、いくら見ても飽きない風景なのである。

 そう、『それでも海は呼んでいる』のだ。

私達、海で遊び、海で仕事をする「海族」は機会があれば、陸の人間を海上に連れ出して汚れた自然を目のあたりに見せてやる必要がある。

 そして多くの人が

「これではいけない」

と考え、少しでも水を綺麗にする努力を始めるきっかけをつくらなくてはならない。

 という、理屈をこねて今日も嫌がる人を海に連れ出すのだ。