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今夜の番組チェック

奴隷船放浪記


奴隷船クルーのG君から電話があったのは午後七時半だった。
「今夜から四国へうどんを食べに行くことになりました」
「ああ、そう・・気をつけてね」
「何を言ってるんですか。あんたも行くんですよ。すぐ来てくださいね」


 まただ。いきなりの出港。行先はあって無いようなもの。春の連休の時は高知県へカツオを食べに行くと言って、そのまま九州は別府まで温泉に入りに行き、結局四国一周してしまった。今回の「高松で饂飩(うどん)」も怪しい。


午前0時三十分出港。明石海峡は逆潮。突然の航海計画(計画と言えるならば)だから仕方ない。対水速力は八ノットだが対地速力は六ノットしかない。月明かりで海面の見通しは良くエンジンも快調だった。しかし私の体力の方は一週間の仕事の疲れが溜まっており午前三時にダウン。早朝目が覚めると艇は家島諸島の中を帆走している。


「四国のうどんは?」
「家島でモーニングです」


さっそく気まぐれ航海が始まった。真浦港に入る。港には数軒の喫茶店があったが営業していない。地元の人に聞くと十時過ぎないと開かないと言う。ここでMシェフの出番が来て腕によりをかけたサンドイッチが並ぶ。

 艇長は港を散歩中の男性二人に声をかけ船に引きずり込むと焼酎とビールを振る舞い、朝から宴会になってしまった。そのうち、どこから現れたのか小学生の子供が二人、艇内狭しと走り回っている。三時間ほどの地元交流会が終わると、艇長の
「小豆島へ行こう」
の一声で出港。途中、人をロープで引いたら何ノットまで耐えられるだろうかという話が出た。奴隷船では、この手の話はタブーだ。案の定、艇長は
「やってみたら分かるやろ」
直ちに順に飛び込んで引き回しの刑となる。大体が三ノット強でギブアップだったが艇長はどんどん速度を出せと言ってついに六.五ノットまで耐えた。そこで艇長は叫んだ。
「スト〜ップ。パンツが脱げた!」

土庄港入港。ビジター料金を払いに港湾事務所へ行く。係の年配女性は奴隷船を遠く眺めて曰く、
「五トンやな。一トン五円やから二五円」
とのたまった。信じられない。いくら島と言ってもここは世界有数の高物価の日本国である。さらに言えば奴隷船は十トンを超えるから半額サービスだ。この値段だったら一年係留しても一万円で釣りがくる。本船扱いの計算は嬉しい。

 有り難く小銭を払って事務所を出る。さらに嬉しいことには桟橋から温泉行きの無料送迎バスがあり、さっそく汗を流しに行き、ついでにショッピングセンターで食料を仕入れ、また宴会が始まる。


 次の出港は午前二時。今度は潮の流れを綿密に計算し、東流最速で明石海峡を抜けるようにした。MシェフとN氏にナビを任せたが、その計算はピタリと当たり、夜明けに淡路島北端。そのまま潮に乗って大阪湾に入った。対水速度八に対し対地速度は時に十ノットを超えた。
夏以降、昼は酒盛り、夜に航海というのが定番になってきた。夜陰に乗じての行動は、奴隷船から海賊船へ変貌しつつあるような気がする。

「新西宮でトイレして、北港で昼飯食べて泉大津で給油して帰ろうか・・・」
艇長の一言。どこへでもどうぞ。舵を握っていたN氏は沖の一文字からスイスイと港内に入り、いざ着岸。ところが風に押されて失敗。二回しくじったところで艇長が、
「私がやる」
と言って交代。しかし、何たることか、またもや失敗の連続でポンツーンにいた人々は、奴隷船の動きに合わせて舫い綱を取ろうと右往左往するはめになった。

 せめて出港する時はすんなり出ようと私が舵を握る。ところが今度はポンツーンに擦りそうになった。見ていた人々は、舷側を押すために、またも走りまわらなければならなかった。恥の上塗りをして沖へ出る。


「いやあ、こんなこともあるんやなあ」
「今ごろ新西で、ボロクソに言われて、大笑いされてるやろなあ」
「そやなあ、きっと、ど素人やと思われてるで」
「今度から新西に行ったら一番着けやすい場所に案内してくれるんとちゃうか」
「レースに出たらみんな避けてくれるかも」
「そいつは有難いわ。わっははははは!」
と反省?しきりだった。


 さて反省と言えば、本誌もついに本号で最後となる由。「それでも海は呼んでいる」は様々な失敗例から読者諸兄(含む姉)の安全航海の参考にと思って始めたが、結果的には「お笑い航海記」に終始してしまったようで恐縮至極。されど何のモンクも言わずに御愛読くださった皆様には深く感謝の意を表するところであります。


今後はネット上での情報発信が主となるそうですが、出来れば多くの仲間の意見交換が出来るようなWEBページも創って頂ければ楽しいかと思う次第でございます。また私の私的なホームページ( http://azj.hp.infoseek.co.jp/)
も開設しておりますので暇つぶしに立ち寄っていただければ幸いです。ありがとうございました、皆様の御安航を祈ります。