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船    名

船舶検査証書には「船名」欄がある。故にヨットやボートのオーナーになろうとする人はこれを考えなくてはならない。

 大阪府警の警備艇の艇名を見ると、モーターボートや8メートル級の小型警備艇は「きじ」「はと」「はやちどり」「しらゆり」「さつき」と、鳥や花の名前が使用されており、10トンを超えるクラスになると「やまとがわ」「あじがわ」「よどがわ」「きづがわ」と川の名前が多い。

 これが20トン前後の艇になると、地名(国名)となり、「かわち」「いずみ」「せっつ」「なにわ」「なみはや」と命名されているが、この名前のつけ方は、何かに似ている。そう、大日本帝国海軍の艦艇の名だ。

 日本海軍には艦艇の名前をつける際に一定のきまりがあったという話を聞いたことがある。例えば戦艦なら国名があてられ、「大和」や「武蔵」となり、航空母艦なら「龍」「鳳」「鶴」の字がつく。一等巡洋艦は山の名前(金剛等)で、二等巡洋艦なら川の名前(長良、大井)となり、砲艦は名所、旧跡(宇治・伏見)、水上機母艦は主に地名(千代田・秋津洲)、敷設艦は鷹又は島。海防艦は島の名と番号。駆逐艦は天候、気象。水雷艇は鳥の名であったと聞いている。

 プレジャーボートやヨットとなると決まりは無いから好き勝手な名前を付けることになる。友人のF氏は17フィートのミニクルーザーに「はっぴいあどべんちゃあ号」という長ったらしい名前をつけた。
 印刷業者は、これほどの名前を付けるくらいだから40フィートクラスの艇とでも思ったのか、横文字でかなり大き目の文字で船名シールを作って持ってきてしまった。船尾には、とても貼ることは出来なかったので船首から貼ってみると、船腹は名前だらけになってしまった。

 彼は名前負けしてはいけないと、この小船に単身乗り込み、船底にはバラスト代わりに焼酎を並べ、大阪から鹿児島まで太平洋廻りで行ってしまった。彼は、この航海以前にはヨットの操船経験は全く無かったから、こういう行為は冒険では無く、暴挙と言う。

 鹿児島に着いた時には船底の1ダースの「いいちこ」は呑みかけの1本を残すだけであったという。
 いずれにせよ、彼はヨットという乗り物の安全性を身をもって証明してくれたのだが、彼の出港に際して私が貸し与えたカメラとコンパスが航海途中に大波をくらい、そのハズミで海の藻屑と消えてしまったことが、私にとって忘れられない思い出となっている。

 私の艇は初代から五艇目を数えるが一貫して「翠鳥」と名づけている。理由というほどのものは無い。自分の住所地の名で、かつ、艇の大きさ(小ささ)から鳥の名前が良かろうという程度である。
 ただし、翠鳥などという鳥はいない。同じ発音でも「翠帳紅閨」となれば、みどりのトバリとくれないのねや。即ち貴婦人の寝室(広辞苑)となり、色っぽくなる。

 「水鳥」では芸が無いし、水と酉で酒の異称ともなるので、これ以上γーGPTの数値を上げたくない私としては、この文字を使うことに抵抗があった。
 つまるところ、シアワセを運ぶ青い鳥というところで「翠鳥」となったのだ。だが、幸せは、まだ来ない。チルチル、ミチルは何をしてるのだろう。

 帝国海軍ではないが、鳥の名前より国の名前を付けても恥ずかしくないような艇のオーナーになってみたいものである。

 

きゃびん